ProustDVD感想

ざっと全部観ました。やはり生で観るのとちがってカメラだと視界が狭くなるので全体が見えないことに少々違和感あり。その代わりダンサーの表情がよく見えて、演技の濃さを改めて感じたりしました。私が観たのは3回でしたがそのうち2回はルグリが若きプルーストでしたから、このDVDに近いキャストでは1回だけしか観てないのよね。
全体に記憶通りでしたが、「囚われの女」は初めてみたかのように新鮮な気持ちで見ちゃいました。生で観た時は、ただただエルヴェの動きをドキドキしながら追っていたら終わっちゃったみたいな感じでしたから(^^;。改めて観ると大変ドラマティックです。これまでラカッラ&ピエールのパ・ド・ドゥしか観たことがありませんが、前半に若きプルーストのソロが入り、そこに戸惑いや苦悩が表され、アルベルチーヌへの愛(本当は愛だと思うのに語り手は認めたがらない)にも増して執着してしまう自分への葛藤が見えます。もちろん何を表現しているかということも大事なんだけど、エルヴェは理屈抜きに美しい。指し出すつま先やちょっとした指先にため息が出ちゃいます。
今回観ていて思ったのは、当然ながらこれはプティの作品なんだなーということ。眠る女とのパ・ド・ドゥは「コッペリア」でのコッペリウスと人形のダンスを思い出させるし、愛情表現としての独占欲やいわゆる愛憎の憎をも表現しているところは「カルメン」を思い起こすし。そしてこれをあくまでもクールにかっこよく踊らないとプティらしさが損なわれるということ。ウェットな表現力じゃ台無しになっちゃうんだよね・・。その意味ではエルヴェは成功していると思います。彼のダンスはドラマティクで情熱的ではあるんだけど、内省的だから演技過剰にはならないし、観客との距離が自然にできるんだよね。この観客との距離には好き嫌いがあるんだと思うけど、私はその辺りも好みなんだと思います。踊り手も気持ちに入り込み過ぎず、解釈をこちらに預けてくれるくらいの距離感というのでしょうか。
全編観て、やはり印象に残るのはルグリになるのでしょう。音楽性といい名演です。シャルリュスという特殊な役柄の中で、ダンディでありながらコミカルにそして何より必要な哀愁も表現しています。ルグリの演技は私的には少々ウェット系なので、若きプルーストやホセのような役柄より、このシャルリュスやおそらくコッペリウスも似合うんじゃないかと思います。オペラ座の引退は近いルグリですが、まだまだダンサーとしての可能性を秘めていると思うので踊り続けて欲しいです。